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| ・サンタのくれたピストル |
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「サンタが来なくなると早く寝る意味ないなぁ……」
それでも部屋のデジタル時計はまだ夜の九時を指している。 友人達は今頃、カラオケでぶっ続けパーティーだの、彼女とイチャイチャしたりしてるんだろう。 しかし、僕はもうパジャマに着替えており、寝る準備は万端である。 僕――浅木一馬には彼女はいないし、カラオケに行くのも好きじゃなかった。 だからといって、寂しいからふてくされて寝ようとしているわけではない。 ――ホントだからね? サンタが楽しみなだけなんだから。負け惜しみじゃないよ? 高校生のくせしてサンタを楽しみにしている人間は居ないだろうと思うけど。 「って言っても中三までこのサイクル変わってないし……」 そうなのだ、中三まで、毎年クリスマスの日だけは最低十時には布団に入っていたのだ。 いつもは平気で日が変わるまで起きてるのに。 家には誰も居ない。 クリスマスイブだというのに、父さんは単身赴任、母さんは祖父が危篤だってことで里帰り。 実質、家に居るのは僕だけってことだ。 一人っきりのクリスマスイブ。 こんなに悲しいことがあっていいのだろうか。 「はぁ……起きててもつまらないし寝よう。ゲームする気も出ないし」 握っていたコントローラを床に放り、ひきっぱなしの布団に潜り込む。 部屋の電気を枕元のリモコンで消す。 ――動くのも、もう面倒くさいや。 「――おい、少年」 耳元から声が聞こえる。 頭が半分寝ぼけているけど、この声は男だろう。 「あー……誰?」 寝ぼけ眼を無理に開いて、声の主の姿を見ようとする。 真っ赤な服に、胸元まで届くほどの白い髭。 人の良さそうな爺さんがそこに立っていた。 「…………んあ?」 頭の中でその姿と一致する人物を探して、照合しようとする。 該当なしと出ました。 朦朧とした頭でもう一回考えようとすると、急に肩をぽんぽん叩いてきた。 「おお、起きたか。今回は手渡しにしようと思ってな」 爺さんは背中に背負った袋を体の前に持ってきて、中から何かを取り出そうとしている。 「…………サンタさん?」 ――イカン、眠っていたからか幼児化している。 僕は頭をぶんぶん左右に振って目を覚まそうとした。 「おお、そうじゃよ?それ以外に何だと言うんじゃ。わしを不法侵入者にでもするか」 かっかっかと豪快に笑う。 ――ちょっとイメージ違うなあ…… 「あったあった、これがプレゼントじゃ」 ギャップに戸惑っていると、サンタが袋の中から何かを取り出した。 「ほれ、手を出せい」 僕は両手をすくう様にして、サンタの前に出す。 ――いわゆる頂戴ポーズだな、こりゃ。 するとその手の上にはずっしりと重たい金属の感触があった。 「……あ?」 さっきまでは暗闇に目が慣れてないから見えなかったが、夜目が働いてきたのでその正体を見ることが出来た。 そこにあったのはピストル。 それもワルサーだ。 ――あれだよ、あれ。ルパン三世のあれ。 「……何? これ?」 目を手のひらの拳銃に向けたまま、サンタに問いかける。 「何……ってピストルじゃよ。ちなみにモノホン」 「年寄りがモノホン言うなぁ〜!」 つい真夜中に大声を出してしまった。 本当にツッコむところはそこじゃないんだけど。 「何でサンタがピストルを良い子に渡すんじゃあ〜!? 第一、銃刀法違反だろが! フィンランドでも当たり前だろが!」 息を切らせて言いたいことを一気に言った。 おかげで酸欠です。 しかし、指で耳栓をしていやがった。 ――僕の酸素を返せ。 その怒りを無視して、サンタは耳から指を離し、僕に話しかけてきた。 「それは人を撃つためのものではないわい。もっとすごいことが出来るぞ」 「もっとすごいこと?」 サンタはうむ、とうなずいて説明を始めた。 「そのピストルはお前の狙うターゲットを跡形もなく消してしまうのじゃ。正確には存在も何もかもじゃ。そのターゲットとの関係や存在していた過去も。 距離も関係ないぞ? 地の果てからでも狙いを定められる。ただし一つだけじゃがな」 「余計性質悪いだろ!」 そう純粋に思ったので叫ぶと、サンタは今までとは違った厳粛な顔に変わった。 空気もどこか違う。 「まぁな。普通はその反応じゃろう。アイツが憎いと思って撃てば、その者は消滅するのじゃからな」 その言葉に僕はゾクリときた。 ――憎い奴を消せる? そんなこと言っても消せるわけがなかった。 だって生きているんだから。 「うむ。どうやら、恐ろしくなったようじゃな。それでこそお前に渡す意味があるというものじゃ」 サンタは僕の様子を見て安心しきった表情を見せている。 さっきの厳粛なムードとは大違いだ。 「……何回まで使えるの?」 それは重要なことだ。 何回でも使えるというのも困るし、一回こっきりと言われるのも駄目だ。 「三回までじゃ。それ以上はな〜んにも起こらん。しかし、期限があるからな? 二十六日の午前零時、クリスマスが終わるときまでじゃよ」 三回。 そのくらいが相場だろう。 ランプの魔人も三つだし。 「そっか、ありがとう。何かに有効活用させてもらうよ」 そう言うとサンタはどこか満足げに微笑んだ。 その笑顔は純粋な喜びの微笑みだったような気がする。 「では、わしは行くよ。お前にだけ時間を取られてはいられないからな」 サンタは袋を背負い直して、窓の方を向く。 「約束の時間にそれを取りに来るからな。それまでじっくり考えて使うが良い」 サンタはカーテンをくぐって外に出て行った。 きっと外には空飛ぶトナカイとそりがあるのだろう。 さらに僕は今日すごい発見をした。 ――最近のサンタは窓を開けずに出られるんだなぁ。 次の日、僕は学校に出ていた。 もう冬休みにも関わらず、まだ学校に行っているのは冬期講習のためだ。 そして、僕は歩きながらサンタにもらったピストルを眺めていた。 「何でも消せるって言ってもねぇ……」 何かを消すなんて考えたこともない。 欲しいものは山ほどあるけど、消したいものなんて何もないのが事実だった。 「おう浅木、おはよ」 クラスメイトが話しかけてくる。 「ん? 松川か、おはよう」 彼は松川といって気軽に話せる友人の一人だ。 学校で僕は優等生として通っているため、あまりチャラチャラしている人たちとは接点がない。 しかし、松川はどっちでもやっていける人間なので、僕にも話しかけてくれるわけだ。 「いやぁ〜昨日は疲れたぜ。日が変わるまでカラオケだぜ? さすがに喉も潰れちまうっつーの」 それにしては声はいつもと変わらないが。 すると松川は僕の手に握られているものに目を向けた。 「お? 何だよそれ? 本物のピストルか?」 「違うよ。昨日サンタクロースにもらったんだ。信じてもらえないだろうけどね」 その言葉で、松川は唖然とした。 サンタをまだ信じていることについてか、サンタがピストルを手渡したことについてかはわからない。 「はぁ……やっぱり家に引きこもっているのが悪いんだな。もう少しはじけた方がいいぞ?」 かわいそうというような眼差しで僕を見てくる。 ――残念ながら正常なんですよ、僕の頭。 「まぁ、それはともかく。何に使うんだ、それ?」 彼の頭の中では僕はちょっと疲れておかしくなっているということになってるのだろうか。 ともかくで片付けられたくない。 ツッコんでる時間も勿体無いのでサンタの言ったことを要約して説明してやった。 すると、「よっしゃ! そこらにいる女子高生の制服を消そうぜ!」なんてことを言い出しやがった。 ――馬鹿野郎。三回までって言ってるだろうが。 「そんなことしても、楽しいのは一時だけだぞ? 第一、人を困らせることなんてしたくないね」 ここが僕の良いところだ。 人が困ることは絶対にしない。それが僕のポリシー。 確かにそれは魅力的な考えだけど。 そんなことを話していると学校に着いてしまった。 最後に松川はこんなことを言ってきた。 「今日の授業消さない?」 当然のこと、却下。 ピストルの使い道を見つける前に学校が終わってしまった。 授業は午前中だけだったから早いのは当たり前だが。 一つも候補が出ないのが驚きだ。 それだけ真面目な生活をしていると言えるのだけれど。 「う〜ん……」 帰り道も頭をひねって使い道を探そうとする。 手に持ったピストルが少し重たくなっている気がした。 「僕みたいな人間には使えないかもなぁ、これ」 そんな感じに、もう放り捨てたくなってきた。 でも、そんな気は全くない。 拾ったそいつが善人か悪人かはわからないからだ。 「こう思うと……押し付けられた気がする」 そう思いながら、ずっと下を向いていたことに気付き、顔を上げる。 見上げると、屋根から大量の雪が落ちそうになっていた。 そして、その下には買い物袋を下げたお婆さん。 「危ないなぁ……雪下ろしぐらいすれば良いのに」 すると言った矢先に屋根から雪が地面に向かって流れてきた。 お婆さんは全く気付いていない。 もし気付いていたとしても、買い物袋があるから逃げられないだろう。 「危ない!」 僕は叫んで、お婆さんに伝えようとした。 お婆さんは大きな影が出来たことで、上から雪が流れ落ちてくることに気付いたが、逃げられる状態ではなかった。 それは買い物袋のためではなく、なんと腰が抜けてしまったらしい。 このままでは――。 そんな嫌な考えが僕の頭の中をよぎる。 僕はその瞬間、無意識に雪に向かってピストルを撃っていた。 雪よ、消えろと願って。 ピストルの銃口から光が出て、あたりを照らしていく。 あまりの眩しさに僕は目を瞑ったが、光が治まったあとはさっきと何も変わらない景色だった。 いや、何も変わっていない訳ではない。 屋根の上の落ちかかっていた雪が綺麗さっぱりと無くなっていた。 まるで溶けて蒸発したかのように。 「ほへぇ……すごいなぁ、コレ」 あれからまっすぐ家に帰り、もっと使い道を考えていた。 さっきの雪を消したことで、これは本物だということが証明されたからだ。 お婆さんは何が起きたのかはわからず、そのまま立ち上がってスタスタ行ってしまった。 ――まったく、礼ぐらい言ってほしいものだ。 言える訳がないのだけれど。 僕が消しましたなんて言えないし。 「しかし、本当に何でも消せるんだなぁ。は……はは!すげぇ!」 そのまま、布団に倒れこむ。 しかし、何か物寂しい感じがした。 「……でも、僕の寂しさまで消せるのかな?」 思ってもいないことがぼそりと口をついて出た。 そう、どんなに良い物を手に入れても、どんなに良いことが起こっても一人じゃつまらない。 どうやら僕は極度の寂しがり屋のようだ。 「ファミリーコンプレックスってやつかな……そんな言葉があるかは知らないけど。略してファミコン……くだらない」 そして僕は横になった。 ――爺ちゃん、何でこんなときに危篤になる? それは思ってはいけないこと。 そう思うことで爺ちゃんは死んでしまうかもしれない。 だが、そう思うことが、ピストルを使うきっかけになったのも事実だった。 「そっか!」 僕は布団から跳ね上がるように体を起こす。 今、僕は家族に帰ってきて欲しいと願っている。 それなら帰って来れない原因を消せば良い。 「よし、まずは母さんからだな」 立ち上がってピストルを構える。 方角は関係ない。 僕の願いはどこまでも届くのだから。 「爺ちゃんの病気、消えろ!」 そして引き金を引く。 すると、雪を消したときと同じように光が溢れ出した。 同じように光が消える。 距離があるためうまく言ったかは確認できない。 でも前例がある以上、きっと成功しているだろう。 「次は、父さんか。でもどうすればいいのかな?」 また頭を抱える。 しかし、今は頭がよく働くようだ。 まだ帰って来れないならば、残りの単身赴任の日数を消せばいいのではないだろうか。 「おお! 頭の回転がおかしいくらいいいぞ!」 その考えから、またピストルを構えて願う。 「父さんの単身赴任の日数、消えろ」 また光があふれ、消える。 すべてうまくいったはずだ。 だが問題が一つ。 二人の今いる距離から帰ってくるまで一日くらいはかかるということだった。 頭は高速回転しているようでいて実はあまりしていなかったらしい。 「しまった……あそこで人助けに使わなければ、僕が父さんと母さんを待っている時間を消せば良かったのに」 でも、後悔してももう遅い。 人助けも十分すばらしいことなのだから。 自分のわがままを通せばいいってものじゃない。 僕はまた布団に倒れこんだ。 日が落ちて、月が出た。 しかし、その月ももう沈もうとしている。 それは約束の零時に近づきつつあるということを示していた。 僕はあれからずっと布団の上でこのままだった。 「ふぅ……」 さっきから出るのはため息ばかり。 もうどれだけの幸せを逃しただろう。 食事も風呂も、本当に何もしていない。 「結局、意味なかったな……これ」 もう光の出ないピストルを握り締める。 金属の冷たい感触はもう無く、ずっと触っていた僕の体温が移っていた。 すると、外からシャンシャンという音がする。 サンタのそりの音だろう。 時計を見ると、もう約束の時間だった。 サンタはまた窓を開けずに入り、僕に挨拶をする。 「よう、少年。ピストルは使えたか?」 サンタは明るく僕に話しかけてくる。 その明るさが、今の僕には目障りで腹立たしかった。 「全然。何にも意味が無かった」 布団に寝転がったまま言った、僕からの精一杯の悪口。 でもサンタは疑うような目で僕を見ていた。 「本当にそうかのう? 人を助け、祖父の病を治したのに?」 「でも僕は自分のわがままを通そうとしてただけなんだ……」 その言葉は自分を少しだけ傷つけた。 自分で発した言葉だったのに。 そして、目から少しずつ涙がこぼれていった。 「結局、母さんも父さんも帰って来ない、今日中には帰ってこないんだ……!」 堰を切ったように涙は溢れ、口は言葉を発していく。 どんどん心が痛くなって、自分の言葉に傷つけられていく。 しかしサンタは僕に優しく言葉をかけてくれた。 「それでいいんじゃよ。もうお前も高校生、わがままも言えないし泣くことも許されないかもしれん。 だからわしはこれをお前にプレゼントしたのじゃ。最後のわがままを叶えてやるためにのう。 しかし、お前はそれをもらったときに考えず、人助けに使ってしまった。それではわしの計画も台無しじゃ。じゃからの?」 サンタは僕を起こす。 「これから起こることはわしからのサービスじゃ」 そう言うと、玄関のドアがガチャリと開く音がした。 ただいまという聞きなれた声が二人分聞こえる。 「いや〜……お爺ちゃん危篤だとか言っておきながら単なる風邪だったわ〜! 折角のクリスマスに倒れんなってね〜?」 「会社の間違いで単身赴任終わるの昨日だったんだってさ。だから何とか帰って来たよ。はっはっは」 母さんと父さんが帰ってきた。 「え? これって……?」 サンタの顔を見る。 この前見せた笑顔よりもさらに満足そうに笑っている。 「一日遅れのクリスマスでもいいかのう?」 そんな質問、答えは一個しかないのに。 「当たり前でしょ!」 すると居間から母さんの声が聞こえてきた。 「一馬、起きてる? 今日は朝までパーティーよ〜! イブの分まで取り返すんだから〜!」 それを聞いて、サンタは僕の背中を押した。 うなずいて僕は部屋を出る。 たった一言だけ残して。 「ありがとう、サンタさん」 サンタさん、なんてもう言うことは無いだろう。 でもサンタはいるのだ。 僕にわがままというプレゼントをくれたサンタが。 そしてサンタも一言を残していく。 「メリークリスマス」 クリスマスの日に二時間かけて書き上げました。 我ながら「そんな小説投稿するなよ」と突っ込みたくなりますが。 タイトルに反して中身はハートウォーミングな話に出来上がっています。 これを読んで家族の暖かさを感じていただければ幸いです。 ……Written By 十六夜 |